此処に居る事にももう飽きた。自分は基本的に飽き性なのだから仕方がない。
≪飽≫
肩を押さえ、首を回し、星もなく月も濃い雲に隠れた黒一色の夜空を見上げながら、同行者に言う。
「気にしなくていい」
「…ごめんなさい」
成る程。普通に喋る事もできるのかと、状況違いに驚いた。いつもの勢い付いたしゃべり方に慣れていると、些か違和感が有る。
状況――任務が終わった。
腕が一本無くなった。肩からもがれ、出血が酷く、どうにも危なそうだ。引きちぎられた血管からは血が噴き出し未だ止まらない。
こういうのも危機的状況と呼べるのだろうか。ならばやはり、相手のしゃべり方に気を向けている場合ではないのかもしれない。
「ごめん」
「君のせいじゃない」
「でも、ごめん」
「鬱陶しいな。謝らないでくれ」
「…、」
悄気られた。口が過ぎたのかも知れないが、感情がなく、人間の時の記憶すら薄れ演技も儘ならない自分に他人の心を推し量れというのは、赤子に数学の公式を使い難問を解けと言うのと同義だ。つまりは、不可能。
心がないのに何を悄気ると怒鳴りたい気分だが、そんなのは自分のキャラでないし、何より相手のミスを咎めず此方を咎めては変だと思われそうだ。それは嫌なので、もうこの話題は打ち切る事にしよう。
「――帰ろう。悪いと思っているのなら俺の腕を持って帰ってくれ。それでチャラだ」
「…回廊、開くよ」
青から紫にかけての寒々しい色が多い「回廊」が、それよりも黒く暗い、夜の石畳から立ち上り、空間に穴を開ける。
「でもさ、」
「ん?」
「何であの時呆けたんだい?らしくもないミスをしたね」
「――ごめん」
「俺は質問をしたんだが、…それは答える気がないという態度でとっても問題はないかい?」
「うん」
この女…っ!
ここでこそ悄気て素直になってくれれば、まだ可愛げもあるというに。
「…まぁ、いい。君が何を思おうが俺には関係ないしね」
「ゼノちゃんは冷たいねぇ…」
それは自覚済みだ。何を言われたところで今更傷付きなどしない。傷付く心も持ち合わせない――と言っても、不可視の心が本当に傷付くのかは謎だ。この肉体のように、肉が抉れ血が噴き出し、脂肪や骨が露出する訳でないのだし。
「まぁ、優しくて鬱陶しい人よりは好きだよ。だからあたしの事を責めてくれればいいのに」
「だから、とは?面白い接続詞を使うんだね。勉学が足りない君らしいよ。俺は君に好かれたくてこんな性格をしているんじゃない」
「――自己満足だよ。謝ったって事実が欲しいのかも。もしくは自分を罵らせて、相手を悪役にしたい。はたまたうんと罵られて、被害者ぶりたい。どれかなぁ…」
揺らめく闇の前に立つ姿が嫌に儚く見える。そんな人柄の相手ではないのに。寧ろ、機嫌が悪ければ、気晴らしに儚い相手を嬉々として虐めるような奴だ。自分と同じで悪役気質なのは疑うまでもなく決まっている。
「――気にするな」
先程から口が麻痺するのではないのかと思うくらいに言った台詞を立ち上がりながら繰り返す。
「全部かもしれないし、どれも違うかもしれない。俺達みたいに心が無いのには、どのみち判断はつかないよ」
「そりゃそっか。無駄だね」
「勿論無意味さ」
「あ…支えようか?」
「俺より十センチ以上小さい君が、どうやって俺を支えるつもりだい?」
「……根性」
「君、やっぱ、アホだね、実感した」
「ゼノちゃんに言われたくない…」
「ほら、帰るよ」
「――ねぇ、」
まだ何かあるのか。
「…夜。血。男女二人。腕」
「うん…で?」
「凄くこれ、…シュールだよね」
「――あー…」
確かに――飽きない、奇怪な絵図だ。
「超嫌だ…」
周りに人が居なくて本当に良かったと、二人は俯きながら思った。
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ゼノ練習。こいつ難しい…途中で飽きたw蜥蜴は普通に喋れるけど、声小さくなるからこれ超周り静かなんだよ多分だから聞こえてんだ!…いや、そないめさ小さい訳違うが、まぁボソボソ喋りより少し大きいくらい
多分腕はくっ付くんやね?優秀な医療系技術持っとるアルバイターさん多いしきっと平気、なくてもこれ飽くまで死ぬちょい前くらいの時期設定だから問題はない、任務放棄が多くなるからなゼノwそのまま消えるw