「愛されたいとか好かれたいとか、羨ましい。自分には…自分達には、死ぬまで解らない感情だと思います」
だって、人の暖かみに触れた事がない。
触れた人の幸せは、全然長続きしない事なら知っている。
「虚しい。一瞬幸せだから、その後ずっと辛くなる。一瞬のせいだ。『いつかまた』と願うのでしょう? そんなに悲しくなるのなら、自分は薄く虚しい関係だけ持った、つまらない人間で居続けますよ」
「…自分も大概に我が儘な奴よなぁ」
「貴女程ではありませんがね」
愉快そうにくつくつと喉を鳴らして笑われる。呆れたような言葉を呟いた割りに、楽しそうだ。
「受け身じゃあかんで。誰かにちゃんと何かやらな。貰ってばぁで居るには、自分は小心者すぎる。罪悪感が有るやろう?」
「さぁ、 ……、」
否定できない。
「居心地悪いやろ、めっちゃ好いてこられるの。嫌いやからやのうて、多分、自分はそんな事できないから」
人の暖かみに触れた事がない。
――そう思っていなくちゃ、どうせ悲しむのだけは解ってる。
「つまり、めっちゃ嬉しいんやろ」
結局。
自分は構ってほしいだけの、甘えたガキなのだと思う。

***
多分だけど一度も誰からも興味持たれずに育ったら「もういいや」みたいな諦めのがくる気がして
愛される好かれるがいいもの、って事すら知らないと思うんです。敵意ばかりな人間に成る
ナイズは拗ねてレモンドは早い段階で諦めてる。ナイズも面倒と辛いの半々で諦めた
事がある…こいつらそれもあって無気力気味、「何しても、どうせ」みたいな。ナイズの短気は治っとらんが笑
「自分達」て自分とレモンドの事だよ自分とイライザの事ではない

指先は刃の切っ先のような冷たさを帯び、切りつけるように撫でてくる。
有り得ない。錯覚だ。見ろ、この手のひらの赤みったら無い。
けれど寒く、冷たいのだ。どうしようもなく寒気がして、身体が震えてしまいそうになるくらい。
「…どうした、大丈夫か?」
声だけが優しい。意図的に普段より高い声で、ゆっくり、染み込ませるように紡がれた心配の言葉は、偽の心配だと気付いていても気にならないくらいに心地よい。
「別に、なぁんにも」
バカげてる。
「そっか。…そうは見えねェもんでな、言ってくンなきゃ怒っちゃうぜ?」
鎖骨の上を這っていた舌が、首、顎を伝い、ゆっくり上がってくると、唇を割って入った口内で動く。
その舌の先端についているピアスの生ぬるさに、なぜか安心した。

背中を向けて眠られたら、それを後ろから抱いてやるような紳士ではない。
勿論、恋人でもないのだから。事が終わった後が冷めていようが淡白だろうが、それで呆れられ終わる関係じゃない。
始まってすらいない関係をどう終わらせるのかは、甚だ疑問だけれど。
「おい、寝たのか」
夜の闇に溶けそうなくらい小さく呟く。距離的にお互い聞こえないなんて事はないだろうに、返事は聞こえない。
「………冷てェンでやんのー」
他の男にはどうなのか知らないし、他人との情後の態度や行為になんて興味はなかったが、ここまで一貫して冷たくされると、他の男にもそうなのかと疑問が出てきてしまう。
(まァ、いいけど)
事が終わった後にも甘えてこられるのは、大抵何かあった時だ。そういう時だけ、寂しさを埋める為に利用される。
それで構わない。辛い時に一番頼りたい人間であれるのなら、それで。
そんな事を考えながら、なるべく音を立てないように女の正面に回るべく身体を跨いで越える。
ギィ、と古いベッドが軋み、一瞬後、微かに身動ぎをされて焦る。
「…何や、アホ」
意識は覚醒しきったように見えないが、呂律はきちんと回っている。立派な罵声だ、こんな時は呂律が回らなくていいのに。
「相変わらず寝起き最悪だな…」
「うっせぇ。自分何で前おるんなら、背ぇ向けた筈やけど」
「そりゃ、僕が動いたから」
「……眠い、」
暗闇に慣れた自分の目に映る二色の目は、成る程、言葉に偽りはなく、とろんとしていて疲れていそうだ。
元々二重がはっきりと判る目元だが、今は三重くらいになっている。
「僕も眠ィんだよ。お休み」
暗い中で半分の色だけ目立つ頭を撫で、声を掛けると、どうなるかは既に知っている。
もぞもぞと布団の中で動き出し、胸元に髪と肌のあたる感触。額が押し付けられたのだ。
「…バカは単純だわ。僕もバカだから解る」
反撃する気がないのか、反撃する気力がないのか、返事がまたなくなってしまう。
少し丸められた背中を軽く叩き、頭をゆっくり撫でてやる。こんなあやすような行動、普段なら「ガキが何を」と呆れられるか、「触るな」と嫌がられるだけなのに。
(うーん、…これが嬉しいんだよなァ…)
単純なもので、このなつかれている感じが嬉しくて、つい何度もやってしまいやめられない。
彼女の事は、犬みたいな奴だと思っている。足を怪我した、自力で歩けない大きな犬。
「よーしよしよしよし…、…なんちゃって」
「…バカにしとんか」
「っ!」
起きていた。独り言のような虚しさの代わりに気まずさが胸を占める。
「し、してねェ。つーか寝ろよ」
「言うなら、黙れ。うっせぇんやって…」
「はいよー」
文句を並べても決して逃げないところが、愚直で好ましい。
――背中を向けて眠られたら、それを後ろから抱いてやるような紳士ではない。
勿論、恋人でもないのだから。事が終わった後が冷めていようが淡白だろうが、それで呆れられ終わる関係じゃない。
それに甘んじている。心配しなくても終わらない関係は楽で心地よい。
ごぽごぽと音を立て、底無し沼にゆっくりと沈むような感覚。どうしようか、なんて考えられない。
沈んでしまう時は、どうせ一緒だ。

***
微妙に続いてる2つ エロく書かないのが目標 リザはガスのたまに冷めた態度が苦手で嫌いで恥ずかしい
興味ない人に適当に優しい事ありません?あんな感じがたまにある
気分屋だかんな。プラス女嫌いがたまに出て、ちょい虐めたくなるんじゃないかな!

パラレル。もしも生きてたら、和解してたらってヤツです
黒い空にぽっかりとあいているまぁるい白い穴を眺めながら、ぽつり、ぽつりと話しだす。
「…貴方は、寂しくないんですか?」
もし「寂しい」と答えられたところで、何と声を掛けてやれば相手にとって最良なのかなんて解らないのに、何を無駄な質問をと思う。
けれど訊かずにはいられなかった。その理由もまた、解らない。
…酔いがまわっているのだろう。自分がこんなにも酔いやすいなんて知らなかった。
「さぁ…どウなんダロうね。よく解らナい」
他国から来たせいでアクセントが変なところに付いている独特の口調、喉を震わせるだけの感情のこもっていない笑い方。
馴れた今では何も感じない。チリリンと、笑って震える身体に従い鳴る、この獣人の耳元で揺れるピアスについた鈴の音が耳に心地いいだけ。
「…寂しカった、ってのが正しイカな。今ハもう寂しクナい。…皮肉ダよなぁ、君ニ反省させタくて、君の後悔する顔が見たクて、一緒にいタのニ」
今じゃ寂しさを紛らわせる同居人だね。
一人は寂しいが、二人は寂しくないんだ。
(…ホント、皮肉だわ)
はー、と白く長く息をはく。真っ白な月と同化していつの間にか消えるそれを眺めながら、少し口元を緩めた。
「後悔ならしてますよ。反省だって。だけど、それは貴方が望む種類の後悔と反省ではないです」
「ほう…どンナ後悔ト反省なのカな。気ニなるね」
「さぁ?秘密です」
「酷いナ。そコで引くかイ?」
「探ってみて下さい。分かるかもしれませんよ」
グラスにつがれた透明な酒に映る自分の顔が穏やかで、少し驚く。
これのせいだ。この酒のせいで、らしくない行動をしている。
「分かるまでは、一緒にいさせて下さい」
らしくない事が言える。らしくない事を考える。
「分かっテもいればいい。私ハどうセ一人だもの、寂シいよ」
嬉しそうでも嫌そうでもない、変わらないいつも通りの作られたような微笑みに、何故か安心を覚えた。
(…家族がいたら、こんな感じなのかしら)
人生、何が起こるのか…本当に分かったものじゃない。

***
ロキシーとガルシアがもしも和解していたら→仲良し、ガッシュが死なないつまりはカルメンも死なない、ナイズも幸せ
ガッシュとロキシー…別企画ですが、クラリスとクライヴ。の、故郷を焼いた盗賊一味の首領がガルシア。
ロキシーはその事を恨んでない。ガッシュに言いくるめられて「暇だし」感覚で復讐に同行してた。
ガッシュにガルシアが入り浸る娼館に売られた(寝なかったからガッシュに此処に売られたガッシュ最低^ω^)後、ガルシアが買い取る予定だった女をそうと知らず殺した。
ガルシアと彼女は相愛だった、みたいな。その後まぁ色々あった、って設定がありまして笑
恋愛が絡まない男女のコンビって好きっす…趣味すぎて\(^o^)/
懐かしい話をした。そう言えば、確かに彼女の髪は昔、黄色と青の二色だった。
「や。我ながらあの色はなかったわ…」
んー、と唸りながら眉間に皺を寄せ天井へ飛ばした視線の先に、けれど天井ではなく数年前の自分を見ているイライザを見てカルメンは笑う。
「青とピンクとか、黄色と…緑とかかな。それなら、綺麗かもしれないね」
「青なら赤やない?黄色なら…黒か、『近付くなーっ』みたくてかっけーで」
「警戒心持たせてどうしたいの?」
「む…」
しかめっ面の、やっぱり皺が寄った眉間を人差し指でほぐしながら、こちらも当時を思い出す。最初に出会った時は茶髪だったのに、いきなり髪を奇抜な色に染めたのだから驚いた。
「あの時は何で染めたの?」
「…シュージ派に入るんでな。心機一転?」
「あ、嘘ね。その言い方は嘘」
「っ…じ、自分、アスに似てきた?」
「付き合い長いから分かるんだよ。あと、話逸らしても駄目」
「ほらっ、そっくりや!!」
目が面白いくらいに泳ぐのだから、そういう反応が楽しくて「アス」と呼ぶ彼に嬉々として虐められ続けるのだと分からないのだろうか?
…彼の考えが理解できる辺り、言われた通り似てきたのかもしれない。
「何で『アス』なのかも気になってた…ねぇ、ついでに教えて?」
「…ヤや」
「あ、内緒にしたくなる事なんだー!ねぇねぇ、教えてって!」
「どっちも大した事とちゃうし…おもろないよ」
「えーっ何で隠すのー!教えて教えて教え」
「うるさい!!」
後ろから怒鳴られつつ背中を蹴られ、一瞬息が詰まる。地面にぶつけた額が痛い。
「いっ…たいなぁっ!ナイズ君の乱暴!暴漢!変態!」
「最後はおかしいな、変態ではない。だが暴漢は肯定しよう。蹴られて当然だ、うるさかったのだから」
「イライザも何でナイズ君きてるの教えてくれなかったの!」
「…気付かへんかった」
「嘘だな。目があっただろう」
「自分の糸目とやこう目ぇあっても判らんわ!」
「っ糸目って程細くない!ちゃんと緑の目と判るくらいには目が開いている!!」
「ほんでも目ぇほっそいんに変わりない!」
「目付きそこまで悪くないだろうがっ!」
(…ナイズ君もうるさいじゃん…)
年上達の、まるで子供のような喧嘩を見ながらため息をつく。
ふと窓に目を向ければ雲一つない晴天が目に入り、先ほどのため息と少し意味が似たため息をもう一度ついた。
二人と出会った頃には決して想像しなかったこの日常と化した喧騒が、今では愛しくてたまらない。

***
仲良くできてた筈なんだけど、どこでこいつら失敗したんだろう
毎日一緒にいた訳ではないのに、それでも、偶にきてくれるかもしれないという楽しみがないからだろうか、この一年は今迄に比べ酷く空虚で寂しかった。
今ではこの感覚に慣れてやり過ごせるが、最初半年くらいが大変だった。ドアノブがまわる音や机が軋む音でさえ、逝ってしまった友人の声に聞こえるのだから。
何と言っているのかは分からない。「久しぶり」と挨拶をしているのか、「アス」と自分を呼んでいるのか。 けれどもとにかく、友人の声に聞こえて、どうしようもなく胸が躍っていた。
ありえないのに。
もしもあの時、と未だに下らない想像をして、潰えた未来の可能性を脳内でのみ膨らませる。無駄な妄想だと知りつつも、やらずにはいられない。
──もしもあの時。
諦めずに、死にそうな友人を抱えて城内を駆け回っていれば。
誰か、助けてくれただろうか?なんて、動かなかった後悔が胸で澱んで、泣くにも泣けなかった。ただ息苦しい日々が続いている。
やっと生きたいと思ってくれていたらしいのに、何であんな時に限って死んでしまったのか分からない。理不尽な事ばかりで頭がこんがらがっていけない。
「頼ってくれてよかったのに。僕より小さい人間一人抱えて動けなくなる程、僕は弱くないんだぜ?」
…強がりを呟いた。 無理だ。人を抱えて兵士相手に立ちまわれる程自分は強くない。だから、頼られなかった。捨て置いてくれと言われた。心配をされた。
生きてくれていれば。生きてさえいてくれていたならば。
やっと、あの時生かした事を、自分は喜べた筈なのに。
(幸せになってほしかっただけなんだよ)
歪んだ自分では無理だった希望を、ようやく周りが叶えてくれるところだったのに。
──坂道を上がった先にある墓石の前に誰か立っている事を期待し、誰もいない事に失望する。
そして鼻の奥が痛くなる事には、一年経っても慣れる事はない。

***
アトラドル城で殺せたらなっていうあれでしたから笑 こいつは相当後悔すると思う。助けられなかった事じゃなくて、助けなかった事を?かな
だって、諦めずに抱えていたなら上手く医務室とか見つけて、死ななかったかもしれないから
だからこいつはナイズに殺して貰うってのも少し考えたんですよね笑 同じ事の繰り返し。やった事をやられる ナイズはガッシュを諦める
台詞まで考えてたんですけどね´ω`海守の「嘘ついてるよね!」「あるよバーカwww」をね
「ないよ。だから安心すればいい」的に嘘をついてればいいなって 同じ台詞を繰り返して、少し変える のを、予定してた
だからイライザはガッシュから隠される事を知らずに死ぬ筈だったんだな。今は、ガッシュが言わずに死ぬ予定に変わってるけど
お菓子を作るのも、食べるのも、特別好きな訳じゃない。
けれどお菓子が作れなくなるのは嫌だし、毎日、最低1つは何かを作り、最低1つは新しいお菓子にチャレンジし、腕が落ちないよう努力する。
(バカみたいだけど)
フン、と自分を嘲笑う。こんな自虐の言葉が脳裏に浮かんで、瞼の裏にくっついて離れなくなる事が度々ある。
ふぅわり、漂ってきた甘い匂いが鼻腔をくすぐり、口内が少し「食べたい」と反応する。
どうやら、クッキーが焼けたらしい。

***

「お前は菓子を作るのが上手いな」
誉められた。けれど、これは本気の言葉ではない。
微笑みながらの言葉は、子供を喜ばせる為に、ケーキができる前から用意されていた世辞だ…ひねくれた自分には、そうとしか捉えられなかった。
しかし、ひねくれた見方をしなくても、事実そうなのだろうと、24になった今でも思う。
「どうも」
言葉短くお礼を言った。この男と…他の奴等と同じように、心のない言葉を舌先で放り棄てた。
■色の瞳は、少し悲しそうに細められた。今ならその理由が分かる。彼は、自分がひねくれている事が悲しかったのだろう、と。
「■■、おいで」
■■は彼の■■の名前だ。■■は自分よりも■つ年下で、彼女は子供故に純粋だったから、素直に可愛がれていたっけ。
「何これ?■■■■が作ったん?」
「俺じゃねぇよ。ブレントにな、作らせてみたんだ。俺よりうめーぞ」
嬉しそうに彼は笑った。――あぁ、思い出した。あの子は彼の娘だ。彼のことは、名前で呼んでいて…理由は「秘密な」と釘をさして教えてくれていたのに、忘れてしまった。
「怖い顔のクセに上手いね!」
迷わず頭をぶった。
■■■と小気味よい音がして、少し溜飲がくだる。
顔を気にしてはいないが、口の悪い年下への躾――だった、だろうか?もしかしたら、腹がたっただけかもしれない。
思い出せない。
「ブレントのクセに叩くなバカぁ!」
「■■のクセに泣くなバーカ」
「真似するなバカ!」
「バカって言う奴がバカなんだぞ?」
「ならブレントもバカやし!」
「…仲い■な、お前ら」
「仲良くないも■、ブレントなん■嫌いや!!…でもケーキはも■う」
「あげないよ」
安い材料で子供が作った口触りのパサついた甘くない小さなケーキを持って頭上に掲げる。
「!ブレン■ひでぇ!!」
「…■レント、■■が本気で泣■か■…」
「はいはい」
父親の■■■■■■■■■■■■■■、真っ赤な目でこちらを睨む少女を見て、「やりすぎた」と少し■■■■■■。
小分けにしたケーキ三人で分ける。少女に渡す時、「美味しくないのにシュウチャクすんなよ」と囁く。
少女は色の違う両目をパチパチと瞬かせ、まだ怒っているからだろう、ぶっきらぼうに言った。
「美味しいよ。私たちが作るより上手い」
べー、とつき出された舌の赤さと、裏表のない言葉が…嬉しかったのか、照れ臭かったのか。きっと両方だろう。言葉や態度は鮮明に覚えているから、余程自分はこれに驚いたらしい。
「ははは!おい、顔真っ赤だぞ!」
「!! っ、…!?」
「やーい、■■■■■■■」
「うるせぇっ!!」
「■■■■■■■■」
彼は嬉しそうだった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■。
「…また作る」
「■■■■」
目を細め、歯が見えるくらい笑うと、少し彼の少年の頃が見える。娘は彼と目元がよく似ているんだな。
ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でる動作は逞しいのに、顔は普段より幼いのだから、上機嫌な自分はそれすら何だかおかしくて、つい、笑った。
■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■。
■■■■■。
「■■■■■■」
「■■■■■■■■」
「■■■■」
彼等が誉めてくれるのが嬉しかった。
穿った見方はしてしまうが、彼等が本気で大好きだったから。
喜んでくれるのが、喜ばせられるのが、嬉しかった。

***

「70点」
チョコが苦い。こういうチョコだと言えば90点くらいに自分で評価できそうだが、本当はもっと甘い…子供が喜んでくれそうな、クッキーを目指したのに。
「…はぁ、」
欠けたクッキーと、欠けた記憶を重ねて考える。事故で欠けた記憶は尋ねれば少しは戻るだろうが、そうする気にはなれない。
思い出したくない事がある。
忘れているのに、なぜか怖くて仕方ない記憶が、思い出したい部分まで浸食している。
「…フ――…?…何て名前、だっけ…。…あいつなら、喜んだかな」
彼なら甘いものより苦目のクッキーを好いただろう、と、昔慕った男の好みを思い出す。
彼の為に作るなら、これは95点だ。
(…街の…青年なら、食うかな)
誰かにプレゼントする為、少しずつ包んだクッキーを持って家から出る。
目指したものとは別物ができたが、それでも、美味いものは美味い。
(だって俺、菓子作り上手いし)
……お菓子を作るのも、食べるのも、特別好きな訳じゃない。
昔の言葉が今の自信に繋がる自分は、笑顔を求める子供のままだ。
誉められたいだけの子供から、ずっと成長しきれていない。