空が、橙色に染まっている。

それに入り混じる色は、薄藤と黄緑。

その色を全く受けつけない漆黒の長い髪を持つ、背の高い若い風貌の男が歩いている。

隣を、男の膝の少し上までにしか身長が届かないような童子が、並んでついていっていた。

――あまり平穏とは言いがたい雰囲気で。

仲は良さそうだ。嘘でも「仲が悪そう」などとは表現できない。

だと言うに。

「――あ、あの、鳳凰様……」

童子が、おろおろと男に話しかける。

「ん?何だ、人鳥」

鳳凰。そう呼ばれた男は、人鳥と呼ぶ童子を見下ろす。

自分が呼んだのに、見下ろされるとビクっと一つ大きく震え、目を合わすことをせずまた俯く。

「な、何か、とっても機嫌が悪くみ、見えます………どうなさったのですか?」

その発言に、細い目を極限までわざとらしく見開いてみせ、鳳凰は苦笑をもらす。

「ほう、そう見えるか? まぁ、否定はせん。我は――少しだけ、機嫌が悪い」

「理由を、お訊ねしてもよ…宜しい、でしょうか?」

この平穏でない雰囲気を醸し出しているのは、鳳凰だった。

一人、苛々と何か悩んでいる。

それがあまりにも腹立たしく気持ち悪くて、人鳥にしては珍しく、人の事情に踏み込んだ。

「我の個人的なことだ、あまり気にしてほしくはないが――」

「ひっ!す、すいません!!」

頭を庇い、その場に蹲る人鳥。

訊かれたくらいで殴るほどの暴力性を断じて鳳凰は持ち合わせていない。

なので、その態度は少し心外であった。

が、他の真庭忍軍の者と関わっていたのなら仕方が無いかとなぜか納得してしまう。

真庭蝙蝠、真庭白鷺、真庭喰鮫。

この三人が関わるだけで、子供の性格に支障がでるのは仕方が無いと思えた。

「人鳥よ、我をあいつらと同じにするな……」

寧ろ頭を抱えたいのはこちらだと言いたい。

「へ?な、なんですか……?」

「いや、何でもない」

仲間。例え精神崩壊者の壊人かいじんでも、だ。

悪口なんぞ言って何になると、自制できる鳳凰は非常に大人だった。

「まぁ、そういうことだ。すまんな、あまり思い出したくない過去なのだ」

「そ…う、ですか……」

シュンと沈む人鳥の頭――というか、それを覆っている手――を軽くなで、「さぁ行くぞ」と先を促す。

「でも、あまりお怒りにならないで下さいね、鳳凰様」

「む。しかと心得た」

こんな子供を怖がらせてしまったのは、我が事ながら大変な恥だと思う。

だから、人鳥のその後の質問もあえて無視した。

聞こえるか聞こえないかの声音で質問を発した自覚が人鳥にもあったのであろう、深く追求の手をのばしてはこない。

「もう少ししたら、寝るか。まだまだ寝るには早いが、その分明日は早起きだ。良いな?」

「は、はい…」

「いい子だ」

笑いながらもう一度頭を撫でられ、珍しく嬉しそうな顔をした人鳥は、呆気なく先ほどの鳳凰の不機嫌を忘れてしまった。




その夜。

真庭鳳凰は、夢を見た。