「う…ま?鳳……さ…

 鳳凰様っ!」

「!!」

人鳥の荒げられた声に脳を揺らされ、鳳凰は飛び起きた。

「な……何だ、人鳥……?」

問われると、人鳥はまた何時ものようにオドオドと視線を彷徨わせ、結局自分の足元に落ち着ける。

先ほどの迫力はどこへいったのやらと、鳳凰は苦笑した。

「い、いえ…とても魘されていらっしゃったので、…ど、どうされたのかと」

「魘されていた?我がか?」

その問いには答える必要がないと判断したのであろう人鳥は、黙って鳳凰を見つめる。

鳳凰が座っていると、彼らの視線は丁度同じ高さになるのだ。

「…そうだな、我以外この場に居ては困る。 だが、我は魘されねばならぬ夢を見ておらん」

「謝っておいででした」

昨日と同じように鳳凰は細い目を極限まで開くが、今度は演技などではない。本気で驚いた。

そのまま立ち上がり、上を見上げると、空の色まで同じだった。

否、少し暗い。冬の朝はとても遠い故だ。 夏ならば、薄藤が混じり入った鮮やかなオレンジを見せてくれたに違いない。

夕刻に寝入ったのだから、これは寝すぎかもしれない。事実、体が鉛のように重いではないか。

「――鴛鴦、遅いな」

「そうですね。 でも、鳳凰様が気にしていらっしゃるのは、本当に鴛鴦様なのですか?」

「ほぅ?賢しいな、人鳥。我は頭の良い子は好きだぞ」

否定を期待していた人鳥は、瞠目する。

「我は、あの洋装仮面に――いや、あの洋装仮面に似た昔の我の知り合いに、申し訳ないことをしてしまったことがあってな」

あれを見ると、酷く心乱されたのだ……そう呟き、人鳥と同じように俯く鳳凰。

それを慰めるつもりなのか、人鳥が鳳凰の手を握る。

「そうやってちゃんと後悔なさることができるのが、ほ、鳳凰様の素晴らしいところだと、僕は思います…」

「それは……っ」

我の素晴らしいところではなく………

「――っ有難う、人鳥」

彼の素晴らしいところなのに。

「鳳凰様は、恐らく正しいことをされたのだと思います」

曇りなき純粋なまなこで、人鳥はそんなことを言う。

正しいか、どうか?

「人鳥は、何も知らぬからそれが言える」

ボソっと呟いた言葉を、人鳥は拾うことができなかったらしく、

「はい?」

と訊き返した。

「いや、何でもない。さぁ、往こうか」

無知は子供の最強の武器である。それをわざわざ指摘する気など毛頭ない。

鳳凰は一つ、足を踏み出した。

「?? はい…」

その横に並ぶように人鳥もトテトテと付いて往く。

――もしかしたら、

彼も、このような気分だったのだろうか?

「鳳凰様、こ、今度は笑っておられます…」

「ん、すまん。 人鳥よ、おぬしは可愛いな」

「は、はい???」

脈絡がまるで無い返答に、また人鳥は顔を顰めることになった。