「人鳥よ」
やはり昨日と同じように苛々としたオーラを漂わせていた鳳凰が、唐突に人鳥を呼んだ。
「は、はい!!」
それに対する反応も、やはり昨日と然程変わらず。
けれどそれを気にせず、鳳凰は語りかける。
「おぬしが正しいと思うことは、何だ? 童なりに考える、正義とは何か?」
話しかけてきたのよりももっと唐突な、なぜそういう疑問が浮かんだのか全く理解できない人鳥は困惑した。
が、自分が思ったことを正直に答える。
「ぼ、僕はまだ童ですから…鳳凰様のお望みの答えとは、か、かけ離れたことした言えません。それをお踏まえいただければと」
「構うものか。言ってみろ」
「僕が思っている正義とは、真庭忍軍です。僕の大好きな里です。愛している里です。 これを救えるのなら、善悪すら問いません」
正義とはちょっと違う気もしますが、これが答えです――。
珍しく口ごもることもなく一息に話し終えた人鳥は、おずおずと鳳凰の瞳を見上げてきた。
「あ、あの……間違ってますか?」
「ふ……っ、はははははっ!! 人鳥は、我を驚かすことばかりのたまうな」
なおも笑いながら歩き続ける鳳凰を慌てて人鳥が追いかける。
相生忍軍の里跡地で暮らしていた忍者の少年二人とは大分年齢差があったのに、それはまるであのときの二人のようだった。
先導する大きな男、それを信じ尊敬し、ただ只管ついてゆく子供。
確実に分かった。
彼は、このような――嬉しく楽しく、優しい気分だったに違いない。
「そうだな、答えてやろう、人鳥」
「??」
「昨日の質問の答えだ。 我はあの洋装仮面とは知り合いではない。それは言ったな? だが、それに似た男と仲が良かったよ」
聞こえないほどの小さな声で発せられた、人鳥の質問。
敵と頭領が知り合いなどと認めたくないという子供らしい感情故だろう、小さく消え入った質問だ。
『鳳凰様は、あの男とどのような関係なのですか?』
「そうだな…強いて言うならば、我とおぬしのような関係だった」
「師匠と弟子、でしょうか?」
「我らはそれとは違うだろう?仲間だった」
「――すれ違ったんですね」
「すれ違ったというか、喰い違った。 当たり、そして、終わった」
未だに思い出すと背筋が冷える、良いとは決して言えない思い出だ。
「人鳥、もう一つ質問だ。 大切な人は居るか?」
それに対し人鳥はキョトンと呆け、後鳳凰の顔を見つめながら、笑った。
「はい、居ります」
鳳凰も、笑った。
「そうか。大切な人は大切にしておけよ」
「はい!」
――願わくば。
この子が大切な人を手にかけずに済むような里を。
そして何時か、大切な人こそがやはり言葉通り『大切』で。
里こそが正義なんて歪んだ……昔の誰かのような思考を、拭えますように。